中小企業のための「給与計算と労務管理」入門 (連載第1回目)
奈良県内の中小企業様向けに、給与計算で困らないための勤怠管理の基本を解説します。出勤・退勤、休憩時間、残業、シフト変更、有給休暇、欠勤控除など、給与計算の前に確認したいポイントをわかりやすく紹介します。
第1回:給与計算の前に見直したい、勤怠管理の基本
「給与計算は毎月しているけれど、勤怠の集計に時間がかかる」
「タイムカードとシフト表の内容が合っているのか不安」
「休憩時間や残業時間の扱いが、なんとなくになっている」
「パートさんの勤務時間を、毎月手作業で確認している」
上記のようなことでお困りなことはないでしょうか?
給与計算というと、基本給や時給、社会保険料、税金などの計算を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、給与計算の出発点になるのは、毎日の勤怠情報です。
何時に出勤したのか。
何時に退勤したのか。
休憩はきちんと取れているのか。
残業はあったのか。
有給休暇や欠勤、遅刻、早退はどう処理するのか。
これらがあいまいなままだと、給与計算もあいまいになってしまいます。
今回は、給与計算で困らないために、小さな会社が見直したい勤怠管理の基本についてお伝えします。
給与計算のミスは、勤怠管理から起こることもあります
給与計算のミスというと、計算式やソフトの設定ミスをイメージされるかもしれません。
もちろん、それも原因のひとつです。
ただ実際には、計算の前段階である勤怠情報が正しく整理されていないために、ミスや確認不足が起こることもあります。
たとえば、
- 出勤時間・退勤時間の打刻漏れがある
- シフト表と実際の勤務時間が違う
- 休憩を取れていないのに、休憩ありで計算している
- 残業の申請ルールが決まっていない
- 遅刻・早退・欠勤の処理方法があいまい
- 有給休暇の取得日が給与計算に反映されていない
- パート・アルバイトの勤務時間を毎月手作業で確認している
このような状態では、毎月の給与計算に時間がかかるだけでなく、従業員から
「給与が違うのでは?」
「残業代が入っていないのでは?」
と確認を求められることにもつながります。
給与は従業員の生活に直結するものです。
だからこそ、給与計算の前に、勤怠管理の仕組みを整えておくことが大切です。
まず確認したい「出勤・退勤の記録」
勤怠管理の基本は、出勤時刻と退勤時刻をきちんと記録することです。
紙の出勤簿、タイムカード、Excel、勤怠管理システムなど、方法は会社によってさまざまだと思います。
大切なのは、どの方法を使うかだけではなく、実際の勤務実態がきちんと記録されているかです。
たとえば、次のような運用になっていないでしょうか。
- 出勤簿に毎日同じ時間を書いている
- 実際には早く来ているが、始業時刻で記録している
- 退勤後に片付けや報告をしている
- タイムカード打刻後に業務連絡をしている
- 打刻漏れを後からまとめて修正している
- パートさんの勤務時間を口頭確認だけで処理している
厚生労働省は、労働基準法により使用者には労働時間を適切に管理する責務があり、割増賃金の未払いや過重な長時間労働を防ぐため、労働時間管理の具体的な措置を示していると案内しています。(厚生労働省)
勤怠管理は、単に給与計算のためだけではありません。
会社が労働時間を適切に把握し、従業員の働きすぎや未払い残業を防ぐためにも重要です。
始業前・終業後の時間も確認しましょう
小さな会社で見落とされやすいのが、始業前や終業後の作業時間です。
たとえば、
- 開店準備
- 掃除
- 朝礼
- 着替え
- 業務に必要な準備
- 閉店後の片付け
- レジ締め
- 日報作成
- 業務用LINEやメールの確認
こうした時間が、労働時間にあたるかどうかは、会社の指示や実態によって判断が必要になります。
「ほんの少しだから」
「みんな自然にやっているから」
「昔からそうしているから」
という理由で、勤怠記録に入れていない場合は注意が必要です。
特に、毎日10分、15分の作業でも、月単位で見るとそれなりの時間になります。
その時間が給与計算に反映されていなければ、後から未払い残業代の問題になる可能性もあります。
こうした細かな時間が案外見過ごされやすいものです。
一度、実際の始業前・終業後の流れを確認してみるとよいでしょう。
休憩時間は「取ったこと」になっていませんか
勤怠管理でよくあるのが、休憩時間の扱いです。
たとえば、給与計算上は1時間休憩を引いているけれど、実際には電話対応や来客対応でしっかり休めていない。
忙しい日は休憩を短くしているけれど、毎日同じ休憩時間として処理している。
このようなことはないでしょうか。
労働基準法上、使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える必要があります。(厚生労働省)
休憩時間は、単に給与計算で控除する時間ではありません。
従業員が労働から離れて休める時間として、実際に確保されていることが大切です。
特に、少人数の店舗や事務所では、
「休憩中だけど電話が鳴ったら出る」
「お客様が来たら対応する」
「一人勤務なので完全には休めない」
ということもあります。
そのような場合は、休憩の取り方や人員体制、シフトの組み方を見直す必要があります。
残業のルールがあいまいだと給与計算も迷います
残業代を正しく計算するためには、残業時間を正しく把握する必要があります。
しかし、小さな会社では、残業について次のような運用になっていることがあります。
- 忙しそうなら自然に残ってもらっている
- 残業の申請ルールがない
- 社長や上司が残業を把握していない
- タイムカード上は残っているが、業務だったのか不明
- 持ち帰り仕事や自宅での作業がある
- パートさんの残業をあまり意識していない
残業は、単に「長くいた時間」だけで判断できるものではありません。
一方で、会社が黙認しているような働き方になっていると、後から労働時間として問題になることもあります。
使用者は、原則として1日8時間、1週間40時間を超えて労働させてはいけません。また、法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働をさせる場合には、36協定を締結し、届け出ることが必要です。(厚生労働省)
給与計算を正しく行うためにも、
「残業は誰が指示するのか」
「残業申請はいつ、どのように行うのか」
「予定外に残った場合はどう報告するのか」
を決めておくことが大切です。
シフト表と実際の勤務時間、合っていますか
パート・アルバイトがいる会社では、シフト表と実際の勤務時間のズレにも注意が必要です。
シフトでは9時から15時の予定だったけれど、実際には16時まで働いた。
急な休みが出て、別の人が代わりに長く勤務した。
扶養内で働きたい方の勤務時間が、思ったより増えていた。
このようなことは、日常的に起こります。
シフト表はあくまで予定です。
給与計算では、予定ではなく、実際に働いた時間を確認する必要があります。
特に、次のような会社は注意が必要です。
- シフト表をそのまま給与計算に使っている
- 急な変更を記録していない
- 休憩時間の取得状況を確認していない
- パートさんごとに勤務日数や勤務時間が違う
- 扶養内勤務の希望を毎月確認できていない
シフト勤務の会社では、勤務予定と実勤務の差を確認する流れを作っておくと、給与計算がスムーズになります。
有給休暇・欠勤・遅刻早退の処理も整理しましょう
勤怠管理では、出勤・退勤だけでなく、有給休暇、欠勤、遅刻、早退の処理も重要です。
たとえば、
- 有給休暇を取得した日は給与計算でどう処理するのか
- 半日有給や時間単位有給を導入しているのか
- 欠勤控除の計算方法は決まっているのか
- 遅刻・早退は何分単位で管理するのか
- パートさんの有給取得日はシフト上どう扱うのか
これらが決まっていないと、毎月の給与計算のたびに迷うことになります。
また、従業員から見ても、
「なぜこの金額が控除されているのか」
「有給を使ったのに給与が合っているのか」
がわかりにくくなります。
給与計算で迷わないためには、勤怠のルールと給与計算のルールをつなげて考えることが大切です。
勤怠記録や賃金台帳の保存も忘れずに
給与計算に関係する書類は、計算が終わったら捨ててよいものではありません。
労働者名簿、賃金台帳、雇入れ・解雇・賃金その他労働関係に関する重要な書類については、使用者に保存義務があります。厚生労働省のQ&Aでは、保存期間は5年に延長されたものの、経過措置として当分の間は3年と案内されています。
タイムカードや出勤簿、勤怠データは、給与計算の根拠になります。
後から確認が必要になったときに、すぐ見られるように整理しておくことが大切です。
特に、給与計算を外部に依頼する場合でも、勤怠データの提出方法や締め日、確認担当者を決めておくと、毎月のやり取りがスムーズになります。
会社が見直したい勤怠管理のポイント
勤怠管理を見直すときは、まず次の点を確認してみましょう。
- 出勤・退勤の記録方法が決まっている
- 打刻漏れや修正のルールがある
- 始業前・終業後の作業時間を確認している
- 休憩時間が実際に取れている
- 残業の申請・承認ルールがある
- シフト変更を記録している
- 有給休暇・欠勤・遅刻早退の処理方法が決まっている
- 給与計算に必要な情報を毎月確認できている
- 勤怠記録や賃金台帳を保存している
- 就業規則や雇用契約書の内容と実際の勤務が合っている
すべてを一度に完璧に整える必要はありません。
まずは、毎月の給与計算で時間がかかっているところ、不安を感じているところから見直していくとよいでしょう。
給与計算を外部に任せる前に、勤怠の流れを整えることも大切です
給与計算を外部に任せたいと考えたとき、
「勤怠がきれいに整っていないと相談できないのでは」
と思われる方もいるかもしれません。
でも、実際にはその逆です。
勤怠の集計方法があいまい。
給与計算に必要な情報が整理できていない。
残業や有給の処理に迷う。
だからこそ、早めに相談していただくことで、毎月の流れを整えやすくなります。
社会保険労務士に相談することで、単に給与計算をするだけでなく、
勤怠管理、労働時間、有給休暇、残業代、雇用契約書、就業規則との整合性も確認しながら進めることができます。
給与計算は、会社の労務管理の結果が数字として表れる業務です。
毎月の給与計算を安定させるためにも、その土台となる勤怠管理を整えておきましょう。
まとめ
給与計算を正しく行うためには、勤怠管理が欠かせません。
出勤・退勤の記録。
休憩時間の確認。
残業の申請ルール。
シフト変更の記録。
有給休暇や欠勤、遅刻早退の処理。
これらが整理されていないと、給与計算に時間がかかり、ミスや従業員との認識違いにつながることがあります。
特に小さな会社では、社長や事務担当者が他の業務と兼任しながら、毎月の勤怠確認や給与計算をしていることも多いものです。
「勤怠の集計に毎月時間がかかっている」
「残業や休憩時間の扱いに不安がある」
「給与計算を外部に任せたいが、何を準備すればよいかわからない」
「勤怠管理と給与計算をあわせて見直したい」
このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
毎月の給与計算を安心して進められるよう、会社の実情に合わせて、勤怠管理の見直しからサポートいたします。
次回は、
「入社・退職があった月の給与計算で気をつけたいこと」
についてお伝えします。

