中小企業のための「給与計算と労務管理」入門(連載第2回目)
第2回:入社・退職があった月の給与計算で気をつけたいこと
「月の途中で入社した人の給与は、どう計算すればいいの?」
「退職する従業員の最後の給与で、何を確認すればいい?」
「社会保険料や住民税の控除が合っているか不安」
「退職時の有給消化があると、給与計算がややこしい」
上記のような悩みはないでしょうか?
毎月同じ従業員で、同じような勤務形態であれば、給与計算もある程度流れが決まっているかもしれません。
しかし、入社や退職があった月は、確認することが一気に増えます。
月途中入社・月途中退職の日割計算。
社会保険料の控除。
雇用保険料。
住民税。
有給休暇の消化。
最終給与の支給額。
退職後に必要な書類。
ひとつひとつは小さな確認でも、抜け漏れがあると、あとから修正や説明が必要になることがあります。
今回は、入社・退職があった月の給与計算で気をつけたいポイントについてお伝えします。
月途中入社の給与計算で確認したいこと
月の途中で従業員が入社した場合、まず確認したいのは、給与をどのように日割計算するかです。
たとえば、月給者の場合、
- 暦日数で日割りするのか
- 所定労働日数で日割りするのか
- 欠勤控除と同じ計算方法にするのか
- 入社日から締日までの勤務日数で計算するのか
会社によって考え方が異なることがあります。
大切なのは、毎回その場で決めるのではなく、就業規則や賃金規程、雇用契約書で計算方法を整理しておくことです。
「前の人はこの計算だったのに、今回は違う」
「あの人だけ多い・少ない」
ということになると、従業員から見ても不公平に感じられます。
月途中入社がある会社では、日割計算の方法をあらかじめ決めておきましょう。
入社時は、給与計算に必要な情報を早めにそろえる
入社が決まったら、給与計算に必要な情報を早めに確認しておくことも大切です。
たとえば、
- 氏名・住所・生年月日
- 給与振込口座
- 扶養控除等申告書
- マイナンバー
- 社会保険・雇用保険の加入対象かどうか
- 通勤手当の金額
- 雇用契約書の内容
- 所定労働日数・所定労働時間
- 時給・月給・各種手当
などです。
給与所得者の扶養控除等申告書は、給与について扶養控除などを受けるための手続きで、中途就職の場合には「就職後最初の給与の支払を受ける日の前日」までに提出するものとされています。
入社書類の回収が遅れると、給与計算や源泉所得税の確認にも影響します。
特に中小企業では、入社手続きと給与計算を同じ担当者が行っていることも多いと思います。
「入社日までに何を提出してもらうか」をリスト化しておくと、毎回慌てずに対応できます。
社会保険料は「入社月」「退職月」の確認が大切です
入社・退職があった月の給与計算で迷いやすいのが、社会保険料です。
厚生年金保険について、日本年金機構は、月途中で入社した場合は入社日に被保険者資格を取得し、保険料は月単位で計算するため、資格取得した月の保険料から支払う必要があると案内しています。
一方で、退職の場合は、退職した日の翌日に資格を喪失し、保険料は資格喪失日が属する月の前月分まで納めることになります。たとえば月末退職の場合は、翌月1日が資格喪失日となるため、退職月分まで保険料が必要です。
このため、退職日が月末なのか、月の途中なのかで、最後の給与から控除する社会保険料が変わることがあります。
特に注意したいのは、次のようなケースです。
- 月の途中で入社した
- 月末に退職した
- 月の途中で退職した
- 入社した月に退職した
- 給与の締日と支払日がずれている
- 前月分の社会保険料を翌月給与で控除している
社会保険料の控除は、会社ごとの給与計算の流れとも関係します。
「何月分の保険料を、何月支給の給与で控除しているのか」を整理しておくことが大切です。
雇用保険料は料率の確認も忘れずに
雇用保険に加入している従業員については、給与から雇用保険料を控除します。
雇用保険料は、給与額に雇用保険料率をかけて計算します。
この料率は年度によって変わることがあるため、給与計算では最新の料率を確認する必要があります。
厚生労働省は、令和8年度、2026年4月1日から2027年3月31日までの雇用保険料率について案内を公表しています。
入社・退職がある月は、社会保険料や住民税に意識が向きやすいですが、雇用保険料も忘れずに確認しましょう。
退職月の住民税にも注意が必要です
退職時に迷いやすいもののひとつが、住民税です。
奈良県は、個人住民税の特別徴収について、給与支払者が毎月従業員に支払う給与から個人住民税を徴収し、市町村に納入する制度と案内しています。正規雇用だけでなく、臨時職員やアルバイト等の非正規雇用も含まれるとされています。
退職があった場合は、退職日や未徴収税額、転職先の有無などによって、普通徴収への切替え、一括徴収などを確認する必要があります。
大和高田市の案内では、退職・休職・転勤等による異動があった場合、その事由が発生した日の属する月の翌月10日までに市町村へ異動届を提出する必要があるとされています。
また、香芝市の案内では、1月1日から4月30日までの間に退職等をした方に未徴収税額がある場合は、一括徴収が義務付けられているとされています。
住民税は市町村ごとの手続きも関係しますので、退職者が出たときは早めに確認しましょう。
退職時の有給消化と最終給与
退職時には、有給休暇の残日数も確認が必要です。
従業員から、
「退職日までに残っている有給を使いたいです」
と言われることがあります。
このとき、会社としては、
- 有給休暇の残日数
- 最終出勤日
- 退職日
- 引継ぎに必要な日数
- 貸与物の返却日
- 最終給与の締日・支払日
を確認する必要があります。
最終出勤日と退職日は同じとは限りません。
たとえば、最後に出勤する日が先にあり、その後は有給休暇を取得して退職日を迎えるケースもあります。
この場合、給与計算では、有給休暇を取得した日をどのように処理するか、欠勤扱いになっていないか、最終給与に正しく反映されているかを確認しましょう。
退職時の有給消化は、引継ぎとも関係します。
日頃から有給休暇の残日数を管理し、退職の申し出があった時点で早めに確認できる状態にしておくことが大切です。
最終給与で確認したい項目
退職者の最終給与では、通常の給与計算よりも確認項目が多くなります。
たとえば、次のような内容です。
- 最終勤務日までの給与
- 有給休暇取得分
- 欠勤・遅刻・早退控除
- 残業代
- 通勤手当
- 社会保険料
- 雇用保険料
- 所得税
- 住民税
- 立替金や貸付金がある場合の精算
- 制服・備品・鍵など貸与物の返却
- 退職金がある場合の取り扱い
退職金を支給する場合は、通常の給与とは異なる税務上の取り扱いが関係します。国税庁は、退職手当等に対する源泉徴収について、「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合と受けていない場合で計算が異なると案内しています。
退職金の制度がある会社では、給与計算とは別に、退職金規程や税務上の確認も必要です。
入社・退職がある月は、手続きとの連携も大切です
入社・退職がある月は、給与計算だけでなく、社会保険や雇用保険の手続きともつながっています。
入社時には、
- 社会保険の資格取得
- 雇用保険の資格取得
- 扶養家族の確認
- 通勤手当の確認
- 雇用契約書の作成
- 給与計算情報の登録
退職時には、
- 社会保険の資格喪失
- 雇用保険の資格喪失
- 離職票の要否確認
- 住民税の異動届
- 源泉徴収票の発行
- 最終給与の確認
- 貸与物の返却確認
などが必要になります。
給与計算と手続きが別々に進んでいると、情報の反映漏れが起こりやすくなります。
たとえば、退職日は手続き担当者が把握しているけれど、給与計算担当者に伝わっていなかった。
社会保険の喪失日を確認しないまま、いつも通り保険料を控除してしまった。
住民税の異動届の提出が遅れてしまった。
このようなことを防ぐためにも、入社・退職が決まったら、給与計算に必要な情報を早めに共有する仕組みを作っておくと安心です。
給与計算に関する書類の保存も忘れずに
入社・退職がある月は、書類も増えます。
雇用契約書、労働条件通知書、勤怠記録、賃金台帳、退職届、社会保険・雇用保険関係の書類など、後から確認が必要になるものもあります。
厚生労働省のQ&Aでは、労働者名簿、賃金台帳、雇入・解雇・賃金その他労働関係に関する重要な書類について、使用者に保存義務があると案内されています。保存期間は5年に延長されていますが、経過措置として当分の間は3年とされています。
給与計算が終わった後も、根拠となる書類を整理しておくことが大切です。
会社が確認したいチェックポイント
入社・退職があった月は、次の点を確認してみましょう。
入社時
- 雇用契約書・労働条件通知書を作成している
- 給与計算に必要な情報を回収している
- 扶養控除等申告書を確認している
- 社会保険・雇用保険の加入対象を確認している
- 月途中入社の日割計算方法が決まっている
- 通勤手当や各種手当を確認している
- 勤怠管理の方法を説明している
退職時
- 退職日と最終出勤日を確認している
- 有給休暇の残日数を確認している
- 最終給与に反映する勤怠を確認している
- 社会保険料の控除月を確認している
- 住民税の徴収方法を確認している
- 雇用保険・社会保険の手続きと連携している
- 源泉徴収票や離職票の要否を確認している
- 貸与物の返却を確認している
毎回同じ流れで確認できるように、入社時・退職時のチェックリストを作っておくと便利です。
まとめ
入社・退職があった月の給与計算は、通常月よりも確認することが多くなります。
月途中入社の日割計算。
退職時の最終給与。
社会保険料。
雇用保険料。
住民税。
有給休暇の消化。
入退社の手続き。
これらが整理されていないと、給与計算に時間がかかったり、控除ミスや説明不足につながったりすることがあります。
特に中小企業では、社長や事務担当者が他の業務と兼任しながら対応していることも多いものです。
「入社・退職がある月の給与計算に不安がある」
「社会保険料や住民税の控除が合っているか確認したい」
「退職時の有給消化や最終給与で毎回迷う」
「給与計算と入退社手続きをまとめて整理したい」
このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
毎月の給与計算を安心して進められるよう、会社の実情に合わせてサポートいたします。
次回は、
「残業代の計算、なんとなくになっていませんか?」
についてお伝えします。
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