中小企業のための「人が辞めない労務管理」入門(連載第1回目)

第1回連載

「聞いていない」を防ぎましょう。採用時に整えておきたい雇用契約書・労働条件通知書

「せっかく採用したのに、すぐ辞めてしまった」
「入社後に、勤務時間や休日のことで認識違いが出てしまった」
「パートさんから“そんな話は聞いていません”と言われた」

中小企業の経営者さまから、このようなご相談をいただくことがあります。

従業員数が50人くらいまでの会社では、社長や現場責任者が採用面接を行い、その場の会話で勤務条件を決めているケースも少なくありません。

もちろん、信頼関係のある小さな会社だからこそ、柔軟に話し合える良さがあります。
しかし一方で、採用時の約束があいまいなまま入社すると、後からトラブルや早期退職につながることがあります。

「うちは小さい会社だから」は通用しないことも

労働条件通知書や雇用契約書というと、少し堅苦しい印象があるかもしれません。

「大きな会社が作るもの」
「正社員だけに必要なもの」
「パートさんには口頭で説明しているから大丈夫」

そう思われている会社もあります。

しかし、労働条件は、正社員だけでなく、パート、アルバイト、有期契約の従業員にも関係します。
また、2024年4月からは労働条件明示のルールが改正され、すべての労働者に対して「就業場所・業務の変更の範囲」などの明示が追加されています。
厚生労働省も、改正内容のリーフレットやモデル労働条件通知書を公表しています。

つまり、会社の規模にかかわらず、採用時に「どのような条件で働いてもらうのか」を書面等で明確にしておくことが大切です。

よくある認識違い

採用時にトラブルになりやすいのは、たとえば次のような内容です。

1. 勤務時間・残業について

面接では「だいたい9時から17時くらい」と説明していた。
しかし実際には、繁忙期に残業が多く発生する。

このような場合、従業員側は「残業はほとんどないと思っていた」と感じることがあります。

特に小さな会社では、急な注文、納期対応、人員不足などで、どうしても残業をお願いすることがあります。
だからこそ、採用時点で、所定労働時間、休憩時間、残業の有無、繁忙期の働き方などを整理しておく必要があります。

2. 休日・シフトについて

「土日休みだと思っていた」
「月に数回は土曜日出勤があるとは聞いていなかった」
「子どもの行事がある日は休めると思っていた」

休日やシフトの認識違いも、離職につながりやすいポイントです。

とくにパート・アルバイトの場合、家庭の事情、扶養の範囲、子育て、介護などと両立しながら働いている方も多くおられます。

会社としても、どこまで柔軟に対応できるのか。
逆に、どうしても出勤してほしい曜日や時間帯はいつなのか。

ここをあいまいにせず、最初に確認しておくことが大切です。

3. 試用期間について

「試用期間中だから、いつでも辞めてもらえる」
「本採用ではないから、条件は後で決めればよい」

このように考えている会社もありますが、試用期間中であっても労働契約は成立しています。
試用期間の長さ、試用期間中の賃金、試用期間後に条件が変わるのかどうかは、採用時に明確にしておきましょう。

従業員にとっても、「この会社で長く働けそうか」を判断する大切な期間です。
会社側だけが一方的に見極める期間ではなく、従業員側からも会社を見られている期間という認識が必要です。

4. 契約更新について

有期契約のパート・アルバイトの場合、契約期間や更新の有無も重要です。

「3か月契約なのか」
「6か月契約なのか」
「更新される可能性があるのか」
「更新しない場合は、どのような基準なのか」

こうした点があいまいだと、契約終了時にトラブルになることがあります。

2024年4月からの労働条件明示ルールでは、有期契約労働者について、更新上限の有無や内容なども明示事項に含まれています。

書面を整えることは、会社を守るだけではありません

雇用契約書や労働条件通知書というと、「会社を守るための書類」と思われがちです。

もちろん、トラブルを防ぐ意味でも大切です。
しかしそれだけではありません。

働く人にとっても、入社前に条件が明確になっていることは安心につながります。

「この会社はきちんと説明してくれる」
「働き方について相談しやすそう」
「入社後に話が違う、ということがなさそう」

このような安心感は、入社後の定着にもつながります。

人材確保が難しい今、採用は“入社してもらうこと”がゴールではありません。
入社後に安心して働き続けてもらうことが大切です。

小さな会社こそ、最初の説明が大切です

中小企業では、従業員一人ひとりの存在がとても大きいものです。

一人が辞めると、現場が回らなくなる。
社長や他の従業員に負担がかかる。
また採用活動をしなければならない。

このような負担を減らすためにも、採用時の労働条件の確認はとても大切です。

完璧な制度をいきなり作る必要はありません。
まずは、今使っている雇用契約書や労働条件通知書が、現在の働き方に合っているかを確認してみましょう。

特に、次のような会社は一度見直しをおすすめします。

  • 何年も前に作った雇用契約書をそのまま使っている
  • パート・アルバイトには書面を渡していない
  • 試用期間や契約更新のルールがあいまい
  • 残業や休日出勤について、口頭説明だけになっている
  • 実際の働き方と書類の内容が合っていない

まとめ

人が辞めない会社づくりは、特別な福利厚生や大きな制度から始まるわけではありません。

まずは、採用時に
「どのような条件で働くのか」
「会社は何を期待しているのか」
「従業員はどのような働き方を望んでいるのか」
を丁寧に確認することから始まります。

雇用契約書や労働条件通知書は、単なる書類ではありません。
会社と従業員がお互いに安心して働き始めるための最初の約束です。

会社にとって、採用した人に長く働いてもらうことは、会社の安定にもつながります。

「うちの書類、このままで大丈夫かな?」
「パートさん用の雇用契約書を見直したい」
「採用時に何を説明すればよいか整理したい」

このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

次回は、
「最低賃金アップで見直したい、パート・アルバイトの給与とシフト管理」
についてお伝えします。