中小企業のための「給与計算と労務管理」入門(連載第3回目:最終回)

第3回:残業代の計算、なんとなくになっていませんか?

「少しだけ残ってもらった時間は、残業になるの?」
「パートさんにも残業代は必要?」
「タイムカードでは残っているけれど、本当に仕事をしていたのかわからない」
「固定残業代を払っているから、追加の残業代は不要だと思っていた」

上記のようじな疑問が生じたことはないでしょうか?

給与計算の中でも、残業代の計算は特に迷いやすい部分です。

毎月の給与計算では、基本給や時給だけでなく、実際に働いた時間、休憩時間、残業時間、休日出勤、深夜勤務などを確認する必要があります。

「昔からこの計算でやっている」
「だいたいこのくらいで処理している」
「少人数だから細かく見ていない」

このような運用になっている場合は、一度見直しておくと安心です。

今回は、中小企業が確認しておきたい残業代計算の基本についてお伝えします。

まず確認したい「1日8時間・週40時間」の基本

残業代を考えるとき、まず押さえておきたいのが法定労働時間です。

労働基準法では、原則として1日8時間、1週40時間が法定労働時間とされています。これを超えて労働させる場合には、時間外労働として割増賃金の支払いが必要になります。厚生労働省は、時間外労働に対する割増賃金は通常の賃金の2割5分以上と案内しています。

たとえば、時給1,200円の方が法定時間外労働をした場合、時間外労働の時間については、原則として1時間あたり1,500円以上で計算することになります。

ただし、ここで注意したいのは、会社で決めている勤務時間と、法律上の法定労働時間は必ずしも同じではないという点です。

たとえば、会社の所定労働時間(従業員と約束した労働時間)が9時から17時、休憩1時間で実働7時間の場合、1時間残って18時まで働いても、実働は8時間です。
この場合、会社の所定労働時間は超えていますが、法定労働時間(法律上、ここまで働かせていいよという労働時間。いわゆる1日8時間、1週40時間のこと)である1日8時間は超えていません。

一方で、さらに19時まで働いた場合は、実働9時間となり、1日8時間を超えた1時間分について、法定時間外労働として割増賃金の対象になります。

このように、残業代を計算するときは、
会社の所定労働時間を超えた時間なのか
法定労働時間を超えた時間なのか
を整理して考えることが大切です。

36協定がないまま残業させていませんか

時間外労働をさせる場合、割増賃金を支払えばそれでよい、というわけではありません。

法定労働時間を超えて働いてもらう場合には、原則として、労使協定、いわゆる36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。厚生労働省の案内でも、法定労働時間を超えて労働させるには、過半数労働組合または過半数代表者との労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要とされています。

また、時間外労働には上限があり、原則として1か月45時間、1年360時間を超えないものとされています。

小さな会社では、
「忙しいときだけ少し残ってもらっている」
「パートさんに少し延長してもらうことがある」
「毎月ではないから大丈夫だと思っていた」
というケースもあります。

しかし、時間外労働が発生する可能性がある場合は、36協定の有無や内容を確認しておくことが大切です。

パート・アルバイトにも残業代は必要です

残業代というと、正社員だけの話だと思われることがあります。

しかし、パート・アルバイトであっても、法定労働時間を超えて働いた場合には、原則として割増賃金の対象になります。

たとえば、普段は1日5時間勤務のパートさんが、忙しい日に9時間働いた場合、1日8時間を超えた部分については法定時間外労働となります。

また、週の勤務時間にも注意が必要です。
1日ごとの労働時間は8時間以内でも、1週間で40時間を超える場合には、週40時間を超えた部分が法定時間外労働になることがあります。

パートさんやアルバイトさんが多い会社では、シフト変更や急な延長勤務が起こりやすいものです。

「今日は忙しいから、あと1時間お願い」
「急に休みが出たから、代わりに長く入ってもらった」
「本人が働けると言っているから大丈夫」

このような場面でも、実際に働いた時間を確認し、必要な残業代を計算することが大切です。

休憩時間をきちんと取れていますか

残業代の計算では、休憩時間の扱いも重要です。

労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与える必要があります。厚生労働省のQ&Aでも、休憩時間は労働者が労働から離れることを保障されていなければならず、昼休みに電話や来客対応をする場合は勤務時間に含まれると説明されています。

たとえば、給与計算上は1時間休憩を引いているけれど、実際には電話番や来客対応をしている。
忙しい日は休憩を短くしているのに、毎日同じ休憩時間で処理している。
一人勤務のため、休憩中もお客様が来れば対応している。

このような場合、休憩時間として処理してよいのか、実態を確認する必要があります。

休憩時間を自動で控除する勤怠システムを使っている会社もありますが、実際に休憩を取れていないのに自動控除されていると、労働時間が正しく反映されないことがあります。

残業代を正しく計算するためには、
何時から何時まで働いたか
だけでなく、
休憩を実際に取れていたか
も確認することが大切です。

タイムカード打刻後の作業に注意

小さな会社で見落とされやすいのが、タイムカードを打刻した後の作業です。

たとえば、

  • 退勤打刻後に片付けをしている
  • 日報を書いている
  • レジ締めをしている
  • 翌日の準備をしている
  • 業務用LINEやメールに返信している
  • 上司へ報告してから帰っている

このような時間が業務にあたる場合、労働時間として扱う必要が出てくることがあります。

「タイムカード上は退勤しているから」
「本人が自主的にやっているから」
「数分だけだから」

と考えていると、実際の労働時間とのズレが生じる可能性があります。

もちろん、すべての滞在時間が労働時間になるわけではありません。
ただ、会社の指示や黙認のもとで業務をしている時間がある場合は、勤怠管理の方法を見直す必要があります。

残業代の計算では、タイムカードの数字だけでなく、実際の働き方も確認しましょう。

深夜労働・休日労働の割増にも注意

残業代の計算では、時間外労働だけでなく、深夜労働や休日労働にも注意が必要です。

厚生労働省は、法定休日に労働させた場合の割増賃金は通常の賃金の3割5分以上、午後10時から翌日午前5時までの深夜労働については2割5分以上と案内しています。また、時間外労働が深夜に及ぶ場合は、時間外割増と深夜割増を合わせて5割以上となります。

たとえば、飲食店、小売店、介護事業所、宿泊業などでは、夜間勤務や休日勤務が発生することもあります。

この場合、
「通常の残業なのか」
「深夜労働なのか」
「法定休日の労働なのか」
を分けて確認する必要があります。

特に、会社のカレンダー上の休日と、法律上の法定休日があいまいになっている場合は、休日労働の割増賃金の判断で迷うことがあります。

就業規則や雇用契約書で、休日や勤務時間のルールを整理しておくことが大切です。

月60時間を超える残業にも注意

時間外労働が多い会社では、月60時間を超える残業にも注意が必要です。

中小企業についても、2023年4月1日から、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は50%となっています。厚生労働省のリーフレットでも、中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%になると案内されています。

普段はそれほど残業がない会社でも、繁忙期や人手不足の時期に、特定の従業員だけ残業が多くなることがあります。

特に、

  • 月末月初に業務が集中する
  • 一人の担当者に仕事が偏っている
  • 退職者が出て一時的に人手不足になっている
  • 繁忙期に残業が増える
  • 管理者やベテラン従業員に負担が集中している

このような会社では、月ごとの時間外労働時間を確認しておく必要があります。

給与計算のためだけでなく、働きすぎを防ぐためにも、残業時間の管理は大切です。

固定残業代を払っていれば安心、ではありません

固定残業代を導入している会社もあります。

固定残業代とは、一定時間分の時間外労働などに対する割増賃金を、あらかじめ定額で支払う仕組みです。

ただし、固定残業代を払っているからといって、どれだけ残業しても追加の支払いが不要になるわけではありません。

厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、固定残業代を支払う場合、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できるようにしたうえで、固定残業代が法律上の計算による割増賃金額を下回る場合は、その差額を支払う必要があると説明されています。

また、求人票などで固定残業代を賃金に含める場合には、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、固定残業時間を超える時間外労働等に対して割増賃金を追加で支払う旨を明示するよう、厚生労働省が案内しています。

固定残業代については、次のような点を確認しておきましょう。

  • 基本給と固定残業代が明確に分かれているか
  • 何時間分の残業代なのか明示しているか
  • 固定残業時間を超えた場合に追加支給しているか
  • 雇用契約書や労働条件通知書に記載しているか
  • 求人票の内容と実際の雇用契約が合っているか
  • 実際の残業時間をきちんと管理しているか

固定残業代は、制度として設けるだけでなく、運用がとても大切です。

「管理職だから残業代は不要」と思っていませんか

残業代の相談でよくあるのが、管理職の扱いです。

「店長だから残業代は不要」
「役職手当を払っているから大丈夫」
「責任者なので時間管理はしていない」

このように考えている会社もあります。

しかし、会社で「管理職」と呼んでいることと、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは別の問題です。

肩書きが店長、主任、リーダーであっても、実態として労働時間の裁量が少なかったり、賃金面で十分な処遇がなかったりする場合は、残業代の対象となることがあります。

小さな会社では、責任のある人ほど現場に長く残りがちです。
役職者の働き方や給与の決め方についても、一度確認しておくと安心です。

残業代計算で確認したいチェックポイント

残業代の計算について、次の項目を確認してみましょう。

  • 出勤・退勤時刻を正しく記録している
  • 始業前・終業後の作業時間を確認している
  • 休憩時間を実際に取れている
  • 残業の申請・承認ルールがある
  • パート・アルバイトの残業時間も確認している
  • 1日8時間・週40時間を超えた時間を把握している
  • 深夜労働や休日労働を分けて管理している
  • 月60時間を超える時間外労働を確認している
  • 固定残業代の内容を雇用契約書に明記している
  • 固定残業時間を超えた場合に追加支給している
  • 就業規則や賃金規程の内容と実際の運用が合っている
  • 給与明細で残業代の内容がわかるようになっている

ひとつでも不安がある場合は、早めに見直しておくと安心です。

給与計算と残業代は、労務管理全体とつながっています

残業代の計算は、単に電卓や給与計算ソフトで計算するだけではありません。

その前提として、

  • 勤怠管理
  • 休憩時間の管理
  • 残業申請のルール
  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 賃金規程
  • 給与明細
  • 36協定

といった、労務管理全体が関係します。

つまり、残業代の計算に不安がある場合、計算式だけを確認するのではなく、会社のルールや実際の働き方もあわせて確認することが大切です。

給与計算を安定して行うためには、毎月の勤怠データが整っていること。
残業時間の考え方が決まっていること。
従業員に説明できるルールになっていること。

この3つがとても大切です。

まとめ

残業代の計算は、小さな会社でも避けて通れない大切な給与計算業務です。

「少しだけだから」
「パートさんだから」
「固定残業代を払っているから」
「昔からこのやり方だから」

このような理由で、残業代の計算があいまいになっていると、後からトラブルにつながることがあります。

残業代を正しく計算するためには、
労働時間を正しく把握すること。
休憩時間を実際に取れているか確認すること。
深夜労働や休日労働を分けて管理すること。
固定残業代の内容を明確にすること。
就業規則や雇用契約書と実際の運用を合わせること。

こうした確認が欠かせません。

「残業代の計算方法に不安がある」
「固定残業代の運用を見直したい」
「パート・アルバイトの残業代をどう計算すればよいかわからない」
「給与計算と勤怠管理をまとめて整えたい」
「就業規則や雇用契約書と実際の働き方が合っているか確認したい」

このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

社会保険労務士事務所キャリア・アヴニールでは、奈良県内の中小企業さまの実情に合わせて、給与計算や勤怠管理、労務ルールの見直しをサポートいたします。

全3回にわたり、中小企業のための「給与計算と労務管理」入門として、給与計算に関わる労務管理のポイントをお伝えしました。

第1回では、給与計算の前提となる勤怠管理。
第2回では、入社・退職があった月の給与計算。
第3回では、残業代の計算についてお伝えしました。

給与計算は、単なる毎月の事務作業ではありません。
勤怠管理、入退社手続き、有給休暇、残業代、社会保険料、就業規則など、会社の労務管理と深くつながっています。

毎月の給与計算を安心して行うためにも、会社の実情に合ったルールと運用を整えていきましょう。