中小企業のための「人が辞めない労務管理」入門 (連載第3回目:最終回)
第3回連載 最終回
人が辞める前に整えたい、ハラスメント・育児介護・相談窓口のしくみ
「最近、職場の雰囲気が少し悪くなっている気がする」
「従業員から相談を受けたけれど、どう対応すればよいかわからない」
「育児や介護で休みたいと言われたとき、どこまで対応すればよいのか不安」
中小企業の経営者さまから、このようなお悩みをお聞きすることがあります。
従業員数が50人くらいまでの会社では、社長と従業員の距離が近く、日々の様子が見えやすいという良さがあります。
一方で、距離が近いからこそ、言いにくいことを我慢してしまったり、相談先があいまいになったりすることもあります。
人が辞める理由は、給与や労働時間だけではありません。
「相談しても聞いてもらえない」
「職場で嫌な思いをしている」
「育児や介護のことを言い出しにくい」
「この会社で長く働くイメージが持てない」
こうした小さな不安が積み重なると、ある日突然、退職の申し出につながることがあります。
今回は、人が辞める前に整えておきたい、ハラスメント対策、育児・介護との両立支援、相談窓口のしくみについてお伝えします。
小さな会社ほど「相談できる場所」が大切です
中小企業では、社長や上司が日々の業務を見ながら、従業員の悩みに対応していることが多いと思います。
ただ、従業員の立場から見ると、
「社長には直接言いにくい」
「上司本人のことで悩んでいる」
「こんなことで相談してよいのかわからない」
と感じていることもあります。
そのため、会社としては、日頃から
“困ったときに、誰に、どのように相談すればよいのか”
を決めておくことが大切です。
相談窓口といっても、大企業のような立派な制度を作る必要はありません。
まずは、
- 相談を受ける担当者を決める
- 相談方法を決める
- 相談内容の秘密を守ることを伝える
- 相談したことを理由に不利益な扱いをしないと明確にする
- 必要に応じて外部の専門家に相談できる体制を考える
このような基本的なルールを整えることから始められます。
ハラスメント対策は「起きてから」では遅い
ハラスメントというと、深刻なトラブルを想像されるかもしれません。
しかし実際には、最初は小さな違和感から始まることもあります。
たとえば、
- 注意の言い方がきつい
- 特定の人にだけ負担が偏っている
- 冗談のつもりの発言で相手が傷ついている
- 妊娠・育児・介護に関する休みを言い出しにくい雰囲気がある
- お客様からの強い言動を、従業員が一人で抱えている
このような状態を放置すると、従業員の心身の不調や退職につながることがあります。
職場におけるパワーハラスメント防止措置は、現在では中小企業にも義務化されています。また、セクシュアルハラスメントや、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについても、事業主には防止措置が求められています。
大切なのは、
「ハラスメントが起きたら対応する」ではなく、「起きにくい職場にする」
という考え方です。
カスタマーハラスメントにも備えが必要です
最近は、従業員同士のハラスメントだけでなく、お客様や取引先からの強い言動、いわゆるカスタマーハラスメントへの対応も重要になっています。
たとえば、
- 長時間にわたるクレーム対応
- 大声での威圧的な言動
- 土下座や過度な謝罪の要求
- 不当な金銭要求
- SNSや口コミでの過度な攻撃
- 従業員個人への執拗な連絡
このような対応を現場任せにしてしまうと、従業員は「会社は守ってくれない」と感じてしまいます。
厚生労働省は、2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務になると案内しています。
中小企業でも、今のうちから次のようなことを決めておくと安心です。
- 悪質なクレームがあったとき、誰に報告するのか
- 従業員を一人で対応させない場面はどのような場合か
- 電話・メール・対面対応の記録をどう残すか
- 警察や弁護士など外部機関に相談する基準をどうするか
- 会社として「従業員を守る」方針をどう伝えるか
お客様を大切にすることと、従業員を守ることは、どちらか一方を選ぶものではありません。
会社として対応方針を決めておくことで、現場の従業員も安心して働きやすくなります。
育児・介護の相談は、早めに受け止めることが大切です
従業員の中には、子育てや家族の介護をしながら働いている方もいます。
特に介護は、ある日突然始まることがあります。
親の通院付き添いが必要になった。
家族が入院した。
ケアマネジャーとの面談が入った。
施設探しが必要になった。
このような状況になると、従業員本人も仕事との両立に不安を感じます。
ここで会社が、
「急に休まれると困る」
「他の人に迷惑がかかる」
という反応だけをしてしまうと、従業員は相談しにくくなります。
もちろん、小さな会社では一人が休む影響が大きいものです。
だからこそ、早めに相談してもらい、勤務時間、休暇、担当業務、シフトの調整を一緒に考えられる状態を作っておくことが大切です。
育児・介護休業法は令和6年に改正され、令和7年4月1日から段階的に施行されています。厚生労働省は、介護離職防止のため、個別の周知・意向確認や雇用環境整備などが事業主の義務になったと案内しています。
制度の名前をすべて覚える必要はありません。
まずは、従業員から育児や介護の相談があったときに、会社として慌てず対応できるようにしておくことが重要です。
就業規則や社内ルールに落とし込む
ハラスメント対策や育児・介護対応は、「気をつけましょう」という声かけだけでは不十分です。
小さな会社でも、最低限のルールを文書にしておくことで、対応がぶれにくくなります。
たとえば、次のような内容です。
- ハラスメントを禁止する方針
- 相談窓口と相談方法
- 相談者のプライバシー保護
- 相談したことによる不利益取扱いの禁止
- 育児・介護休業、子の看護等休暇、介護休暇の手続き
- 時短勤務や所定外労働の制限などの取り扱い
- カスタマーハラスメントが起きた場合の報告・対応方法
就業規則がある会社は、現在の規定が法改正や実際の運用に合っているかを確認しましょう。
就業規則をまだ整えていない会社でも、まずは社内ルールや相談対応の流れを作ることから始められます。
特に、従業員が10人前後になってくると、社長の感覚だけで全員に対応することが難しくなってきます。
「前はこうだった」
「あの人には認めたのに、私は認めてもらえなかった」
という不公平感を防ぐためにも、ルールを見える形にしておくことが大切です。
人が辞めない会社は、不安を放置しない
人が辞めない会社には、共通点があります。
それは、従業員の不安や違和感を放置しないことです。
もちろん、すべての希望を会社が受け入れられるわけではありません。
小さな会社では、業務の都合や人員体制の問題もあります。
それでも、
「まずは話を聞いてもらえる」
「会社としてルールがある」
「困ったときに相談できる」
「一人で抱えなくてよい」
と感じられるだけで、従業員の安心感は大きく変わります。
ハラスメント対策も、育児・介護対応も、相談窓口づくりも、単なる法律対応ではありません。
従業員に長く働いてもらうための、会社の土台づくりです。
まず確認したいチェックポイント
最後に、今の会社の状況を確認してみましょう。
- ハラスメント禁止の方針を従業員に伝えている
- 相談窓口や相談担当者が決まっている
- 相談した人が不利益を受けないことを明確にしている
- 育児・介護に関する休業や休暇のルールがある
- 従業員から介護の相談があったときの対応方法を決めている
- カスタマーハラスメントが起きたときの報告ルートがある
- 就業規則や社内ルールが現在の法改正に合っている
- 社長や管理者だけで抱え込まない体制を考えている
ひとつでも不安がある場合は、早めに見直しておくと安心です。
まとめ
中小企業にとって、人材の定着は大きな課題です。
せっかく採用した人に長く働いてもらうためには、給与やシフトだけでなく、職場の安心感も欠かせません。
ハラスメントを防ぐこと。
育児や介護の相談を受け止めること。
困ったときに相談できる窓口を整えること。
会社のルールをわかりやすくしておくこと。
こうした取り組みは、従業員を守るだけでなく、会社を守ることにもつながります。
「ハラスメント相談窓口をどう作ればよいかわからない」
「育児・介護休業規程を見直したい」
「就業規則が今の法律に合っているか不安」
「小さな会社でもできる相談体制を整えたい」
このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
全3回にわたり、奈良県内の小さな会社が「人が辞めない職場」をつくるための労務管理についてお伝えしました。
第1回では、採用時の雇用契約書・労働条件通知書。
第2回では、最低賃金アップに伴う給与とシフト管理。
第3回では、ハラスメント・育児介護・相談窓口のしくみ。
どれも特別な大企業だけの話ではありません。
むしろ、一人ひとりの存在が大きい中小企業だからこそ、早めに整えておきたい内容です。
「うちの会社もそろそろ見直した方がいいかな」と感じられた方は、ぜひ一度ご相談ください。
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