中小企業のための「人が辞めない労務管理」入門(連載第2回目)

第2回連載

最低賃金アップで見直したい、パート・アルバイトの給与とシフト管理

「最低賃金が上がったので、時給を少し上げた」
「パートさんから扶養の範囲内で働きたいと言われている」
「人件費は上がるけれど、人手不足でシフトも減らせない」

中小企業では、このようなお悩みを持つ経営者さまも多いのではないでしょうか。

奈良県の最低賃金は、令和7年11月16日から時間額1,051円となっています。これは正社員だけでなく、パート、アルバイト、学生アルバイト、試用期間中の方などにも関係します。(都道府県労働局所在地一覧)

最低賃金の引上げは、単に「時給を1,051円以上にすればよい」という話で終わりではありません。
小さな会社ほど、給与、シフト、扶養の範囲、人件費、採用・定着に大きく影響します。

今回は、最低賃金アップをきっかけに見直したいポイントをお伝えします。

まず確認したいのは「最低賃金を下回っていないか」

時給で働くパート・アルバイトの場合は、現在の時給が奈良県最低賃金である1,051円以上になっているかを確認します。

注意したいのは、対象となるのは時給者だけではないという点です。
月給制や日給制の従業員についても、時間あたりの金額に換算して、最低賃金以上になっているかを確認する必要があります。厚生労働省は、月給制の場合は「月給 ÷ 1か月平均所定労働時間」で時間額に換算して比較する方法を示しています。(厚生労働省)

また、最低賃金の確認では、すべての手当を含めてよいわけではありません。
時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金、通勤手当、家族手当、精皆勤手当などは、最低賃金の対象となる賃金から除外されます。(厚生労働省)

「総支給額では超えているから大丈夫」と思っていても、実際に計算すると下回っていることがありますので、注意が必要です。

時給を上げると、シフトにも影響が出ます

最低賃金が上がると、会社の人件費が増えるだけでなく、パート・アルバイト本人の働き方にも影響します。

たとえば、扶養の範囲内で働きたい方の場合、時給が上がると、同じ時間働いていても年収が増えます。
その結果、本人から

「勤務時間を少し減らしたい」
「年末に近づいたらシフトを調整したい」
「扶養を外れないように働きたい」

といった相談が出ることがあります。

会社としては、人手が必要な時間帯にシフトに入ってもらいたい。
一方で、従業員としては家庭の事情や扶養の範囲を考えながら働きたい。

ここをあいまいにしたままにすると、年末近くになって急にシフトに入れなくなったり、現場の人員が足りなくなったりすることがあります。

「扶養内で働きたい」人については、早めの確認が大切です

パート・アルバイトの方の中には、いわゆる「年収の壁」を気にして働いている方もおられます。

厚生労働省では、「年収の壁・支援強化パッケージ」として、106万円の壁、130万円の壁への対応策を案内しています。たとえば130万円の壁については、繁忙期に労働時間を延ばしたことで一時的に収入が上がった場合、事業主の証明により引き続き扶養に入り続けられる仕組みが示されています。(厚生労働省)

ただし、扶養や社会保険の判断は、本人の加入状況や配偶者の勤務先、健康保険組合の取り扱いなどによって変わることがあります。

そのため会社としては、安易に
「大丈夫ですよ」
「扶養は外れませんよ」
と言い切るのではなく、本人にも確認してもらいながら、勤務時間や収入見込みを早めに共有することが大切です。

会社が見直したい3つのポイント

最低賃金アップのタイミングで、次の3つを確認しておくと安心です。

1. パート・アルバイト全員の時給を確認する

まずは、現在の時給が最低賃金を下回っていないかを確認します。

特に注意したいのは、次のような方です。

  • 長く働いているパートさん
  • 学生アルバイト
  • 試用期間中の従業員
  • 短時間勤務の従業員
  • 時給ではなく日給・月給で働いている従業員

「昔からこの時給でお願いしている」という方ほど、最低賃金改定に追いついていないことがあります。

2. 時給を上げた後の給与バランスを見る

最低賃金に合わせて新人アルバイトの時給を上げた結果、長く働いているパートさんとの差がほとんどなくなることがあります。

そうなると、長く勤めている方から見ると、
「新人さんとあまり変わらない」
「責任が増えているのに評価されていない」
と感じられることがあります。

最低賃金対応は、単に下限をクリアするだけではなく、社内の給与バランスを見直す機会でもあります。

たとえば、

  • 入社時の時給
  • 半年後・1年後の昇給
  • できる仕事が増えた場合の手当
  • リーダー的な役割を担う方への評価

こうした基準を少し整理しておくだけでも、従業員の納得感は変わります。

3. 年間の勤務時間・シフトを早めに考える

扶養内で働きたい方がいる場合は、年末になって慌てて調整するのではなく、年間を通じて勤務時間を考えることが大切です。

たとえば、繁忙期に多く入ってもらう必要がある会社では、閑散期に少しシフトを抑えるなど、年間でバランスを取る方法もあります。

また、本人の希望だけに頼るのではなく、会社としても
「どの曜日・時間帯に人が必要か」
「誰にどの時間帯をお願いしたいか」
「急な休みが出たときに誰がフォローできるか」
を整理しておくと、現場の負担が減ります。

人件費アップを「定着」のきっかけにする

最低賃金の引上げは、会社にとって負担に感じられることもあります。

たとえば、時給1,000円で働いていた方を1,051円に引き上げる場合、1時間あたり51円の増加です。
1日5時間、月20日働く方が5人いると、単純計算で月25,500円、年間では306,000円の人件費増になります。

ただし、人件費を抑えることばかりを考えてシフトを無理に減らすと、従業員の収入が下がったり、現場が忙しくなりすぎたりして、結果的に離職につながることもあります。

大切なのは、最低賃金アップを「負担」としてだけ見るのではなく、働き方や業務の見直しのきっかけにすることです。

たとえば、

  • レジや予約管理を効率化する
  • 紙で行っている作業を見直す
  • 繁忙時間帯に人員を集中させる
  • 教育の仕組みを整えて、早く戦力化する
  • ベテランのパートさんに役割を持ってもらう

このような工夫によって、同じ人件費でも働きやすく、効率のよい職場に近づけることができます。

まとめ

最低賃金アップは、単なる給与計算の変更ではありません。

中小企業にとっては、パート・アルバイトの働き方、シフト、人件費、扶養、職場への定着を見直す大切なタイミングです。

特に確認したいのは、次の点です。

  • 奈良県最低賃金を下回っていないか
  • 月給者・日給者も時間換算で確認しているか
  • 通勤手当や残業代を含めて判断していないか
  • 時給アップ後の社内バランスは取れているか
  • 扶養内勤務の方と早めに働き方を確認しているか
  • 年末に慌てないシフト管理ができているか

人が辞めない会社づくりは、給与を上げることだけで実現するものではありません。

「きちんと説明してくれる」
「働き方を相談しやすい」
「頑張りを見てくれている」

従業員がそう感じられる職場は、安心して長く働いてもらいやすくなります。

最低賃金の改定をきっかけに、給与とシフトの見直しをしてみませんか。

「パートさんの時給をどう見直せばよいかわからない」
「扶養内勤務の方のシフト管理に悩んでいる」
「最低賃金を下回っていないか確認したい」

このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

次回は、
「人が辞める前に整えたい、ハラスメント・育児介護・相談窓口のしくみ」
についてお伝えします。